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代表のEcoコラム

13. factor4 とは?

2009.03.15

~あまりにもばかげた資源のムダをそろそろ終りにしませんか?

● 環境問題への根本的な対策

前回のコラムの最後で次のように述べました。 結局、重要な環境問題を解決するための対策 としては、究極的には、「世界の人口を減らす」か、「一人当たりの資源消費を減らす」かであり、環境問題の被害を少なくするためには、同時に「貧困の問題を改善する」ことが必要となります。この中で、世界の人口を減らすことは、人類そのものの繁栄を失わせることにもつながりかねない最も困難な問題です。従って、現実的には、人口の増加をできるだけ緩やかにしながら、「一人当たりの資源消費を減らす」ことと「世界の貧困の問題の解決」をしていくことが一番重要 です。

● 「成長の限界」そして「第一次地球革命」 (by ローマクラブ)

ローマクラブ という世界の学識経験者100人からなる民間のシンクタンクがあり、人類の生存に関わる問題が研究されています。このクラブが書いた報告書で有名なものとして、「成長の限界」 (1972年)という世界で1000万部以上が売れた本があります。この本の中では、人口増加や経済成長を抑制しなければ、地球と人類は、環境汚染、食糧不足など100年以内に破滅につながる 可能性が指摘されました。

一方、同じくローマクラブの1992年に出した報告書「第一次地球革命」 では、世界の飢餓や貧困、それが引き起こす紛争などが大きな問題 として取り上げられています。

つまり、一方では、「人口増加や経済成長を抑制してでも、資源の消費を押さえなければ、人類の生存基盤を長期に渡って確保することはできない。」。それと同時に、全世界の貧困や飢餓それに伴う世界の政治的緊張を克服するためには、世界を(特に途上国を)経済的により豊かにすることも必要であるということです。

● factor4とは?

さて、「factor4」 とは、これらのローマクラブの報告書にもある人類の危機をうけて、1995年にエイモリー・B・ロビンスらが提唱した考えです。

「factor4」を一言で言うと、資源生産性(ある一定量の資源からどれだけの財やサービスを作り出せるか)を4倍にすることにより、豊かさを世界で2倍にし、しかも資源の消費を半分にしようとする考え です。

「factor4」の報告書では、次のような主張がされています。

全世界が貧困を克服し、豊かさと地球環境とのバランスを保っていくためには、少なくとも資源生産性を4倍(factor4)にすることが必要である。 逆に資源生産性を4倍にできれば、人類が長期渡って豊かさと環境のバランスを保っていく基盤が得られる。
資源生産性を4倍にすることは、多くの分野で、技術的にはすでに可能であり、しかも経済的にも十分な収益をもたらすものである。

そして、報告書の中で、factor4を実現した実際の事例を50取り上げ、factor 4がいろいろな分野で実現可能で、経済的にも見合うものであることを説明しています。
factor4 以外にも factor10 という考え方もあり、そこでは、全世界でfactor4を実現するためには、アメリカ、EU、日本などの先進諸国では、factor10(つまり資源生産性を10倍にすること)を実現する必要があるとシュミット・ブレーク氏らによって主張されています。

● どれだけの資源をムダにしているか?

factor 4 や factor 10 で言われているように、本当に資源生産性を4倍にしたり、10倍にしたりというようなことが可能なのでしょうか? 逆にいうと、我々はそれほどまでにいま資源をムダに使ってしまっているのでしょうか? まず、我々現代人はどれだけの資源をムダに使っているか を再度認識するために、いくつか例を挙げてみたいと思います。

例1.自動車では、消費するガソリンのわずか1%程度しか有効に使われていない。

投入したガソリンのエネルギーのうち80%はエンジンが出す熱と排気ガスの熱となってしまう。
車輪の回転に使っているエネルギーは、たかだか20%。
自動車の全体の重量のうち、人の体重は、約20分の1程度。ということは、ドライバー自身の移動のために消費されるエネルギーは、20%のうちの20分の1で1%だけ。

例2.アメリカ国内を流通する膨大な資源のうち、実際に製品に変換されるのは、わずか6%にすぎない。

つまり94%の資源は、地球から採掘されたとたんに、まったく製品になることなくごみになってしまっている。
「Industrial metabolism」(RU Ayres – 1989)より。

例3.ノートパソコンは、本体の重量の4000倍の廃棄物を生み出している。

つまり1kgのノートパソコンを作るために、4tonのごみを発生させている。資源の効率はわずか0.025%。

例4.発電所に投入されたエネルギーの90%はムダになっている。

発電所で投入される燃料エネルギーを100とする。
発電所での損失で70%が失われ、残りの30が電気エネルギーになる。
(注 最近の発電所では、発電所での損失は60%程度になっているようです。)
送配電での損失が9%あるので、モーターに入力される電気エネルギーは、27.3になる。
モーターでの損失が10%でモーターからの出力エネルギーは、24.57。
動力伝達系での損失 2%、ポンプでの損失 25%、スロットルでの損失 33%、パイプでの損失 20%となり、 実際にパイプから流れる水に伝わるエネルギー 9.5になる。
つまり投入された燃料のエネルギーの90%はムダになっている。

● あまりにもばかげた資源のムダをそろそろ終りにしませんか?

上に挙げたような例を見ていると資源の無駄遣いがなんと多いことかとあらためて驚かせられます。
こういう風に見てみると、factor4の考え方というのは、「あまりにもばかげた資源のムダをそろそろ止めませんか?」ということと同じ ではないかと感じます。
資源を使うにあたって「90%以上ムダにしている」(つまり10%の資源効率)のを、せめて「60%のくらいのムダに押さえる」(つまり40%の資源効率)くらいにはしましょうよという主張がfactor4であるともいえると思います。
それによって世界の豊かさが2倍になり、資源消費が半分になって、世界の貧困が少しでも解消され、経済発展と地球環境のバランスが図れるのであれば、非常にすばらしいと思います。
インスタントカメラの開発者でポラロイド社の創業者であるエドウィン・ハーバード・ランド(Edwin Herbert Land)は、次のように言っています。
「発明とは愚かさの突然の停止である。」
これだけの資源をムダにしている現代の愚かさを突然停止させる発明がどんどん出てきて欲しいものであると思います。

次回のコラムでは、「労働生産性」に対する「資源生産性」ということについて述べたいと思います。

2009年3月15日 松井 宏信

参考リンク

「ローマクラブ」(ウイキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/ローマクラブ

「Factor4」 EICネット環境用語集
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=2796

Wuppertal Institute – FACTOR FOUR
https://wupperinst.org/en/a/wi/a/s/ad/237/

「Factor10」 EICネット環境用語集
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=2795

「Factor10」 Factor10 Institution
https://www.factor10-institute.org/

「自然資本主義(Natural Capitalism)」
https://www.natcap.org/