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代表のEcoコラム

9. 放射性物質の利用と廃棄

2008.11.15

前回までの3回のコラムで3大重要環境問題の中のひとつである「エネルギー資源、水、食糧の不足」 について述べました。さてもうひとつの3大重要環境問題の中のひとつである「放射性物質の利用と廃棄」 について述べたいと思います。

放射性物質の利用 ということでは、2つの大きな利用分野があります。ひとつは原子力発電 であり、もうひとつが核兵器 ということになります。

核兵器に関しては、ここではテーマとしては大きくは取り上げませんが、少なくとも、きちんと管理できうる体制を持ったしっかりとした国以外には、絶対に広まることは避けなければならないと思います。

ここでは、原子力発電を大きなテーマとして取り上げ、利用という意味での「発電」 とそれに伴う放射性物質の「廃棄」 の問題を取り上げたいと思います。

● 原子力発電が今、脚光を浴びる。

エネルギー需要の増大と石油の高騰、そしてCO2による地球温暖化の問題が大きく取り上げる中、原子力発電がにわかに脚光を浴びる時代になりました。現在、世界では、21カ国127基の原子力発電所が新たに建設される計画 が具体的になっています。さらに将来構想に上がっている数までいれると、29カ国で222基 にもなります(世界原子力協会WNA2007年12月現在のデータより)。

原子力発電には、CO2削減やエネルギー需要増加に応えるという点で、いったいどれほどのメリットがあり、逆に廃棄物という観点からどれほどのリスクがあるのかを見てみたいと思います。

● 原子力発電でどれほどCO2の発生を押さえられるのか?

まずは、原子力発電がCO2の発生を押さえるのにどれだけ有効かについて見てみたいと思います。発電の方法によって、CO2の発生量はかなり違うのですが、これを正確に把握することはなかなか難しいようです。算出する条件や仮定の取り方によって数字が変わってしまうからです。下記のデータは、電力中央研究所の最新の分析データです。データは、2001年7月10日発表されています。
From:https://criepi.denken.or.jp/research/news/pdf/den338.pdf

これをみるとCO2発生を押さえるためには、原子力発電はものすごく有効で、太陽光発電や風力発電よりもCO2発生量が少ないことになります。

しかし、単純にそれだけではすまない考え方もあるようです。 というのは、原子力発電は、電気の需要の変動によって、止めたり動かしたりすることが難しいのです。それにも関わらず、1日の中でも電気使用量は大きく変化します。一般的には、夜間より日中の方が電気使用量が多くなります。それにあわせて電力を供給するには、発電量を変化させなければなります。その変動に原子力発電だけでは対応できないのです。従って、原子力発電を使うときには、変動に対応するためにそれとセットで一般的には火力発電が必要となります。結局は、原子力と火力の発電所がセットで必要となり、原子力のCO2排出量だけでなく、火力の分も考える必要があるわけのではないかとういう議論があるのです。

総合的にみて、上のグラフほどではないにしろ、CO2の発生を押さえるには、原子力発電はかなり有効 だと思われます。

● 原子力発電でエネルギー資源の不足の問題はどれだけ緩和できるのか?

まずは、ウラン資源の確認埋蔵量と可採年数を調べてみました。 以下のデータは、2007年現在のもの(「Uranium 2007」

可採年数が82年というと長いようにも思われますが、現在の原子力発電による電力量が全エネルギー需要の6%程度であることを考えると、ウランはエネルギー資源としては、非常に量が少ない資源 ともいえます。例えば、全エネルギー需要の20%を原子力発電でまかなうと仮定すると、可採年数は24年になってしまします。ウラン自体をそのまま使った発電では、資源不足問題の強力な解決策にはなりえない といえます。

● ウランの可採年数を延ばすために... 核燃料サイクル

ウランの可採年数がそれほど長くない理由は、核分裂を起こしやすいウラン235が天然に存在するウランの0.7%程度にしか過ぎないからです。天然に存在するウランの約99.3%は核分裂をほとんど起こさない燃えないウラン238で、これは発電には利用できないのです。しかし、この燃えないウラン238を燃料として使うようにすることができれば、ウランの可採年数は飛躍的に大きくなる 可能性があります。そのために以下の2つの技術が考えられています。1)プルサーマル

天然のウランを原子炉で燃やした後の使用済み核燃料(大体において3年間燃やしたあと取り出した核燃料)には、ウラン238の一部が中性子を吸収してプルトニウム239という核分裂を起こしやすい物質が含まれています。この使用済み核燃料に残っている燃えやすいプルトニウムを取り出し、4〜9%になるようにウランと混ぜた核燃料(MOX燃料)をつくります。これを通常の原子炉の燃料として使って発電するものです。これによってウラン資源の利用効率が約25%向上します。

この方式は海外ではフランス、ドイツを中心に相当な実績があり、日本でも4箇所の原子力発電所でプルサーマル実施への事前合意が成立しています。

しかし、この技術だけでは、ウランの可採年数がたかだか80年から100年に延びる程度の影響しかありません。その割には、安全性の問題が十分にまだ検証されていない部分も多く、地域住民の反対なども強く、実施には慎重にならざるを得ない状況です。2)高速増殖炉

高速増殖炉という特別な原子炉によって、燃えるウラン235やプルトニウム239から出る高速中性子を燃えないウラン238に吸収させることにより、燃えないウラン238を核分裂を起こしやすいプルトニウム239という物質に転換します。このことにより、そのままであれば0.7%程度しか燃やすことができないウランを、理論上ウラン資源の約60%をエネルギーとして使用することが出来きます。つまり同じ量のウランから数十倍のエネルギーを取り出すことができるようになります。これが実用化されれば、ウランの可採年数は千年を超える ような計算になります。

しかし、この技術はまだまだ実験段階に近いような状況であり、これまでの原子炉も閉鎖や停止された例がほとんどです。今後の開発にも膨大な費用がかかるため開発そのものを中止する国も多い状況です。日本の高速増殖炉もんじゅでも1995年にナトリウムが漏れて火災が起きたことにより、現在運転を停止中です。一方、中国、ロシア、インドなどは開発に積極的なようです。

いずれも使用済み核燃料を利用することから核燃料サイクルと呼ばれおり、ウランの可採年数を増やすのに役立ちますが、どちらの技術も安全性を確立して、実働への人々の理解を得るような段階に至るまでは、まだまだ といったところです。

● 原子力発電で出てくる廃棄物はどのくらい危険なのか?

使用済み核燃料やさらにその再処理の過程でできる高レベル放射性廃棄物は、人間に影響を与えないような状態になるまでには1万年以上にものぼる長い年月が必要 です(下記グラフ参照)。それだけの長い間、人間の生活から遠ざけて管理する必要があります。つまり、気の遠くなるような長い期間、負の遺産を未来に残していくことになってしまいます。この観点から見ると、本当にこんなことをどんどん進めてよいのかと思わされてしまいます。 特に、核燃料サイクル(プルサーマルや高速増殖炉)では、プルトニウムを燃料として扱います。このプルトニウムは、それ自体が年摂取限度量が1人あたり1000万分の3グラム(国際放射線防護委員会の勧告)という強い毒性があるという点、そしてさらに核兵器の原料に転用できてしまうという点において、このような燃料がたくさん使われるようになることにより発生するリスクは膨大なものになる可能性があります。

From:電気事業連合会(https://www.fepc.or.jp

● 原子力発電についてのまとめ

  • CO2削減のためには、 確かに効果があると思われる。
  • エネルギー資源の量としては 、高速増殖炉を実現しなければ、実はそれほど大きな資源量は無い
    現在の需要レベル(全エネルギー需要の6%程度)でも80年程度で無くなる資源。
    さらに需要が増えればもっと早くに枯渇に近づく。
  • 資源量を増やすために、プルサーマルや高速増殖炉が検討されている。
    しかし、運転上の安全面や廃棄物の処理とその後の管理のことを考えると実施には慎重にならざるを得ない。
    また、プルサーマルはリスクの割には、資源量としては25%程度しか増えない。

私自身の結論としては、原子力発電は、CO2の削減に確かに有効ではあるものの、長期的にはできるだけ避けるべきものであると思います。限定的かつ短期的なつなぎのエネルギー源として使うべき だと思います。プルサーマルや高速増殖炉などは、無理に実施せず、あくまで短期的なつなぎのエネルギー資源を目指す方がよいのではないしょうか?長期的な意味でのCO2の削減方法としては、原子力発電以外の方法によるべきだと思います。

しかし、逆に短期的には 、他の化石燃料資源の不足や高騰という緊急的な課題に対処するという意味で、今後20〜30年程度は、安全を重視しながら限定的にではあるが利用をある程度拡大することが必要 だと思います。その後、できるだけ早期に、他の再生可能なエネルギー資源に移行していくことが必要と考えます。

次回のコラムでは、3大重要環境問題の中でも、今もっとも話題性のある「急激な温暖化」について述べたいと思います。

2008年11月15日 松井 宏信